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>LIONTARI ILION>>天使の記憶 2




ガランに言われてた。エアは古代ギリシア史を勉強していたって。だから市内の遺跡を案内してやれと。

「まずは…やっぱアクロポリスか。」

西の前門から入って遺跡をぐるっと回る。博物館を見終えたら外へ出て、アレオパゴスの丘を見ながら古代のアゴラを歩く。それからケラメイコスを見て、ローマ時代のアゴラを………なのに

「…何へばってんだよぉ?」
こんなにゆっくり歩いてんのに、どんどん遅れるは、追いついたと思ったら肩で息してるし。
「………。」

口もきけないくらい疲れてるらしい。聖闘士じゃない奴って、こんなにも弱いもんなのか?しゃーない。一休みするか。
近くの建物の壁に突き出している、ちょっとした出っ張りにエアを腰掛けさせた。すぐそこにあったペリープテロ(よろず屋)でアイスクリームを買って彼女に渡す。

「これ何ですか?」
「アイスくらい食ったことあるだろ?疲れた時は甘いものが一番だ。」
疲れてもいないオレも便乗して食ってるけどな。
「あ、有り難うございます。」そう言って戸惑いがちに一口なめた。

「美味しい…!」嬉しそうに微笑む。
あ、笑った。初めて見るかも、こいつが笑った顔。
オレの前では特にそうだけど、獅子宮にいてもどこか固い表情してた。緊張…してるよな、状況が状況だし。


おやつを食べ終えて少しは元気が出たらしい。しかしこれ以上連れ回るのも難しいだろうな。聖域への出入り口のひとつがあるプラカ地区まで歩き、住宅街の中にある公園のベンチで休んでいるように言った。
「オレが戻って来るまでここにいろよ。買い物済ませてすぐ戻ってくっから。」




…確かにエアは言われた通り待っていた。でももう一人増えてるのはどうしてだよ?

「ナンだよコイツ?」
エアが必死にあやしているガキを指差し尋ねる。
「迷った子みたいです。公園にひとり来ました。」
子供の足で来たとなると、近所のガキか。

「おい、お前名前は?家はどこだ?」しかし半べそ状態で答えられない。
このまま置いていく訳にもいかないし。疲れきった従者と、泣きやまないガキ抱えて親探しかよ…。


エアは子供を抱き上げて、分からない言葉であやしている。自分の国の言葉…らしい。

「どうして?子供の相手する仕事やったのに、泣き止まない…」
ベビーシッターのことか?全然駄目じゃん!

「貸せ!代わりにこれ持ってろ。」
買い物袋をエアに渡し、子供を肩車する。この方が目立つから、親も見つけやすいだろう。
最初はグズッていた子供の機嫌が次第に良くなってきた。

「凄い。アイオリア様、子守り上手。」驚くエアに
「単に高いトコが好きなだけだろ、こいつが。」と気のない返事を返す。

「お前の家はどっちだ?」と質問すると、左手で南西の道を指差した。お、ちゃんと答えられるな。

「名前は?」
「ニコ!」
「歳はいくつだ?」
「こえ」と言って、親指人差し指中指を立てた右手をオレの顔の前に差し出した。
「こいつの方がお前より、ずっとギリシア語分かってるぞ。」
クスクス笑いながらエアの方を振り返った。

言葉の意味が理解出来るまでの数瞬をおいて、思いっきり頬を膨らまし口を尖らせて恨めしそうにオレを見る。彼女のおかしな表情に、ニコと一緒に笑い声を上げた。こいつ、本当に大学生だったのかよ。

反論したくても適当な言葉が浮かんで来ないのだろう。エアはそんなヘンな顔のまま、歩き出したオレの後を黙ってついて来た。




まだシエスタ中で、人出の殆ど無い住宅街を進む。迷路のようなルートに、エアがまたヘバって来た頃、誰かを探しているような声が聞こえてきた。

「あ…パパ!」
頭の上でニコが叫ぶ。やれやれだ。父親のところまでニコを連れて行く。
「ニコラオス!無事で良かった…。」
まだ若いこの父親は、オレ達に丁寧に礼を言って子供を受け取った。

「どうも有り難う。君たちが見つけてくれたのかい?」
「ああ。こいつふもとの方まで来て、迷子になってたぜ。」
「一人でそんなに遠くまで…。」
父親は大事そうにニコラオスを抱きしめた。


「にこらおす…にこらおす…。あーっ!サンタクロース!?」

それまでニコの名前を呟いていたエアが突然叫んだ。どうしてココでサンタが出てくるんだよ。こいつやっぱヘン!
しかしニコの親父さんはエアの方を向いて微笑んで言った。

「そう。サンタのモデルになった聖ニコラオスから名付けたんだ。よく知ってるね。」

へー、そうなんだ。意外と物知りなんだなエアって。ちょっとは見直してやる。

「でも…聖人より天使みたい。可愛い。」

親の腕の中できゃっきゃとはしゃぐニコに笑いかけている。…あ、また笑ってる。このまま自然に笑えるようになるかな?


「お礼にお茶でも」と言われたけど、エアが疲れていることだし、このまま帰ることにした。去って行く父親の背中越しにひょこっと顔を出し「ばいばい」とニコが手を振る。両手を大きく振ってそれに応えた。

「大きくなったら、ちゃんとプレゼント運んで来いよ〜!待ってるからな〜」
そう言うオレの側で、エアが苦笑いしてた。


作成日:051211

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