Novel


>LIONTARI ILION

>>ずるい貴方(ひと) 2




「…結局、ペルシャ戦争ではギリシア側が勝ったんだろ。なんで負けた方の事情まで知る必要あるんだ?」
「それは表面的な出来事に過ぎませんよ。」

「時代は下って…アイオリア様はアレクサンドロス大王が、ペルシャ、今のイランでは『破壊者』として捉えられているってご存知でした?ペルシャ帝国の都ペルセポリスを焼き尽くした野蛮な王だって。」
「え?ギリシアの各ポリスはマケドニアに負けたけど…大王はやっぱ英雄だと思ってる奴多いと思うぜ。」
「確かに稀代の英雄だと思います。しかし同じ出来事でも、立場が違えば評価も違うってことですね。視点を変えてみると、意外なことに気がつきますよ。」

エアは開いていた資料をパラパラとめくった。
「例えば…古代ギリシア人は自分たち以外の人々を『バルバロイ(野蛮人)』って見下していたでしょ?でもその人たちも独自の文化を持っていたってこと、その文化は優劣をつけられるものではないってことが分かっていたら、そんな態度はとれなかったんじゃないかな。」
「………。」

「自分には考えられない習慣を持っている相手でも、その背景や歴史を知れば、理解とまではいかなくても尊重は出来るようになると思うんです。
…なんて偉そうなこと言っても、まだまだ知らないことばかり。未だ勉強中ですけどね。」
「………。何となくエアの言いたいこと分かる…気がする。」
「アイオリア様は地上の全てを守る立場にある人だから。守る相手のこと沢山知っていて欲しいな、って思ったんです。ちょっと例えが古過ぎましたか?」
「いや、感覚的には分かった…と思うんだけど、う〜ん………。」


「駄目だ、頭使いすぎて限界。おやつにしよう!」
エアはその言葉に笑いながら、ガランから託されたクルーリ(胡麻パン)を差し出す。

おやつを平らげ、泉の水で喉を潤した獅子は「栄養補給完了!」と宣言して大あくびをひとつ。
エアの隣に腰を下ろし「ちょっと肩貸せ♪」と、彼女に寄りかかって肩に頭を載せた。

「アイオリア様…;勉強の続きはどうするんですか?」
しかし彼は、あっと言う間に眠りに落ちていったようだ。


「お、重い…。こっちの方が楽かも。」
膝を崩して座り直し、肩にあった獅子の頭を、膝の上にのせ変える。所謂“膝枕”というやつだ。そのカッコのまま、持って来た資料の1冊に目を通す。しかしどうにも読書を続ける集中力が欠けている。

「こんな美しい景色を前にして、下ばかり見ているのは勿体ないか…。」
本を閉じ、目の前に広がる景色を心に焼き付けるのだった。


作成日:050828

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