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>>いつか、どこかで…





いつか、どこかで…


折角ギリシアに居るのに、海を碌に見た事が無い。ましてや泳いだ事なんて皆無だ…

“観光シーズン”とはイコール“発掘シーズン”。小さい島の遺跡ならともかく、本土の内陸にあるソレからは、「青」と言ったら空しか見えない。

半裸に近い格好の観光客を尻目に、日射しを遮るものが殆ど無い場所で、全身日焼け止めグッズで固めた集団が下を向きながら、ひたすら土を削っている。その中に、私エアも居るのだ。


そんな話をアイオリア様とシーズン前にした事があった。

「言われてみれば俺達も、滅多に海を見ないな…」

聖域自体も海に面している訳でもないから。そして海皇のテリトリーに誤って入り込む危険を避けるためもあったらしい。




今シーズンの発掘に入って数日後、午前中の作業が終わりかけた頃に、突然アイオリア様が訪ねて来た。聖闘士の足なら“あっと言う間”って事は分かっていたけど…涼しい顔で目の前に立つ獅子の姿を見た時は、本当に驚いたんだから!(苦笑)

「少し時間が空いたんだ。
 一緒にランチを取ろう」

「この辺りに、他にお店とかあったっけ??」と不思議に思いつつ、発掘メンバーに断りを入れて戻って来た私は、イキナリ彼に抱き抱えられた。

「!!!? ///」

アイオリア様は、そのまま抗議の声を聞くことも無く駆け出していた。いや、分かってるけど、黄金聖闘士の…(以下略)



時間にして、ほんの数秒?止まったのは、海が臨める場所だった。恥ずかしいし、少し恐かったし…文句を言いたかったけど、この景色で帳消しになった。
だから「発掘現場から一番近い海岸まで、どれだけ距離が有るか?」は、考えない事にした。…我ながら現金なものだ。


1umi



「この前『海が見たい』と言ってたろ?それに見たら見たで、日本人としてはシーフードが食べたくなるんじゃないかと思ってな」

「常に禁断症状が出てます…w」



歩いて海岸まで行き、海が見えるお店を覗く。入口に並べられた冷蔵庫から、お店のオススメ料理を選んでもらって席についた。


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日本ではメジャーな海の幸も、ギリシアでは滅多に食べられない…と思うと、余計食べたくなるのが不思議だ。



「魚って肉料理に比べて、ずっと高いでしょ?」
「こんな淡白なメニューじゃ、アイオリア様には物足りないんじゃ…?」

いざ注文を終えてから色々心配になってきた私に「大丈夫だから」と微笑む獅子。その気持ち、有り難く受け取って頂きますね v



グリークサラダ、ムール貝のスープ、メゼ(前菜)盛り合わせ[お醤油が有れば完璧!(笑)]、メインのカジキ野菜トマトソース添え。これだけ魚介類三昧したのって、ギリシアに来て以来、初めて!


 サラダ

 ムール貝のスープ

 メゼ盛り合わせ

 カジキマグロ

 デザート



デザートに水瓜とメロンまで食べて、すっかり満足満足。暫く魚介類を食べられなくても、生きていけそう!
それにしても、アイオリア様が1人でコーディネートしたとは、にわかには信じ難い(失礼!)、デートプランだ。(笑)





食事の後は、浜辺を散歩。砂も海の色もとてもキレイ♪我慢出来なくて、サンダルを脱いで足を浸してみる。まだ水が冷たいかと思ったけど、この位なら膝まで入っても平気だ。

同じ様に海に足を浸けたアイオリア様が、何かひらめいた表情をしたかと思うと、両手で掬った海水を私に向けて空高く放った。水は細かい粒となり、太陽の光を煌めかせながら落ちてくる。虹みたいな七色の光も見えた。
それが余りにも美しくて…全身が濡れるのも構わず、ふたり子どもみたいにはしゃいで、海水を掬い続けてた。





楽しい時間は、本当にあっという間に過ぎてしまう。ふと我に返ると、頭から潮水を浴びた酷い格好だ。しかしシエスタ後の作業が始まる前に戻らないと!

宿舎近くにまで戻って来て、名残を惜しみつつ彼にお礼を言う。ちょっと困ったような微笑みを浮かべたアイオリア様は、手にした包みを差し出した。

「オミヤゲだ。ショーユは無いけど我慢してくれ」

あっコレ、お昼を食べたお店で帰りに受け取っていたもの。中身は…カラマリア(イカの唐揚げ)!?私、そんなに嬉しそうに食べてたのかな? ///


 カラマリア


「それと、これ。キプロスからの輸入ビールだそうだ」

 レオンビール

私は思わず声を上げて笑ってしまった。ΛΕΩΝビール。おつまみのカラマリアにピッタリ!でも、今夜は飲まずに飾っておくね♪
思わぬオミヤゲ攻勢に、別れの寂しさも少し吹き飛んだ感じ。










そんな思いがけない“オミヤゲ”をアイオリア様にも渡したくて、あの日からアレコレ考え続けてた。これ迄に交わした会話を丹念に思い出してみる。そして日本から持ち込んだ“とっておきのアレ”を荷物の隅にそっと置いた。

明日は8月16日。お誕生日のご馳走を前にしたら霞んでしまうだろうけど、きっと驚いてくれる筈。



パーティーがお開きになった深夜。お湯を注いだ“アレ”をアイオリア様のもとへ運んだ。私が手にしているものを見た途端、彼は実に可笑しそうに笑い出した。

「ありがとう。何年振りだろう、コレを口にするのは」

「あの時とは味が違うかもしれないけど、ショーユ味にしました。
 熱いから、火傷しないで下さいね」


任務で訪れた“シンジュク”で、初めて食べたというカップラーメン。あの頃、私は日本に住んでいたけど、アイオリア様の事はまだ知らなかった(事になっている)。なのに今は、こうしてギリシアに居る。

「どこで習ったんだろう?」と不思議に思うほど、箸を器用に使って食べる獅子と、その姿を眺めている自分。



「今度は海で泳ぎたいね」

そんな他愛ない約束を交わす、微笑みの中の幸せな時間。




作成日:140816



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