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>>星あい





星あい


先程から楽しそうに雑誌を読んでいたエアが「あっ」と小さく呟いた。構って貰えなくて、ずっと彼女の様子を伺っていた俺は、すかさず声を掛けた。
「どうしたんだ?」

誌面から顔を上げたエアが凄いものを発見したような表情で俺を見る。
「…今年のアイオリア様のお誕生日って、七夕と重なってたんですね!」
「たなばた…?」
彼女が言った言葉を繰り返してみる。

「あ…東アジアの伝統行事なので、ご存知ないですよね」
ニコっと笑った彼女は、日本ではどんなことをするのかを説明してくれた。旧暦と新暦の違い。そして星にまつわる伝説をも。

「詳しいな…」真剣に驚く俺に対し
「全部これに書いてありました」と、いたずらっ子のように舌を出しネタバレをする。


彼女が手にしているのは、日本の天文雑誌。俺たち聖闘士が星座の宿命を背負っていることから、星にも興味を持ったのだそうだ。ギリシアで手に入れるのは難しいので日本に居る友達から船便で送って貰っているらしい。

「それにしても…ギリシア神話とは全く違うんだなぁ」
「そうですね。織姫のベガは琴座ですし」
「牽牛、彦星は鷲座のアルタイルか………」

俺は美しい顔立ちの琴座と、「聖域1の男前」の異名を持つ鷲座の両聖闘士を思い浮かべた。『意外と違和感無いか…』と思った時、エアが笑いながら俺の口の前に人差し指を突きつけてきた。

「アイオリア様、それを口にしたら、お二人からヤキを入れられますよ」

その言葉に、俺は思わず吹き出してしまった。エアもつられて笑い出す。



「優秀な白銀聖闘士二人を相手にするような、愚かな真似はしないさ」
ひとしきり笑った後、そう応えながら彼女を腕の中に閉じ込める。エアもそっと身を預けてきた。二人だけの、心地よい時間が流れる。


『…牽牛は年に1度、
 しかも晴れないと織姫に会う事が出来ないとは…
 哀しい伝説だな』


10年近くも、エアと逢うことが叶わなかった日々が思い出された。心の揺れが反映して、つい腕に力が入ってしまう。

「アイオリア様…?」
「ん?」
今は、こんなにも近くに在る大切な女性(ひと)が俺を見つめていた。


「私も…多分、同じ事を考えてました」

「………そうか」


彼女の頬にそっと手を添え顔を近づける。愛おしげに俺を見上げていた瞳が閉じていく。珊瑚色をした柔らかい唇に自分のそれを重ねた。














誕生日当日、宮の中庭にあるオリーブの木に二人して短冊を飾った。

あの日『「七夕」やってみようか…』と言った俺に対し、エアは驚きつつも賛同してくれたのだ。


ひと月遅れの「七夕」。ギリシアの夏は一滴の雨すら降らないから、天の川を挟んだ二人も必ず逢える筈。

人々が短冊に願いを書いて祈るように、
遠く離れていた俺達がまた逢えたことを…
今、こんなにも幸せであることを…
天空(そら)へと伝える。



作成日:100816



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