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>>微笑み返し





微笑み返し


1週間くらい前、ガランがオレに許可を願い出た。
「来週の木曜日は、エアの誕生日です。
 ちょっとしたお祝いの席を設けても構いませんか?」

エアが獅子宮の従者に加わってから、まだ日が浅い。
だからギリシア語は片言だし、未だ酷く緊張したままだ。


「別にいいけど…」

オレは美味しいものが食べられるんなら文句はない。


「ありがとうございます。
 本人が遠慮してしまうでしょうから、当日まで秘密にお願いします」
「ああ。ナイショにしとく」





余り考えずにOKを出したけど、イザ当日になってから気がついた。
『ガランの奴、プレゼントとかも準備してあるのかな…?』

用意周到なアイツのこと。
探りを入れてみたら「勿論です」とにっこり笑って答えやがった。


オレが何も考えてなかったことを予期していたらしいガランは
「二人から」ということにすれば良いと言ったけど、
そんなの、宮主としては恥ずかしいじゃないか!

「オレはオレで何か見つけてくる!」

そう見栄を切って獅子宮を出て来たのに、
何を贈ったらいいのか、一向にネタが浮かばない。
しかも“おこづかい”は既に大ピンチ。



頭抱えて広場の端に座ってたら、
この前の集会の時、蟹野郎が自慢げに口にしてた台詞が浮かんできた。
「女相手にゃ花を贈りゃいい。必ず落ちるぜ」


「『落ちる』って意味が分かんないけど…
 花なら、そこいらに咲いてるよな?」

結局、獅子宮の主としては、かなり情け無い道を選んでしまった。


確かに、花はあちこちに咲いてた。
でも皆、丈の短い小さな花で、
オレが想像してた「花束」なんかは到底作れない。
しかも摘むそばからしおれてくる。
“くたー”となった花を抱え、急ぎ獅子宮に戻るしかなかった。





夕食時、予想外のバースデーケーキの出現に、エアは目を丸くして驚いている。
そして、ちょっと困ったような表情になる。
オレはすかさず手元の平皿を彼女の方に押し出した。

その皿には水が張ってあって、オレが摘んできた花が浮かべてある。
途方に暮れた顔で、しおれかけた花を持って帰って来たオレを見るなり
ガランが授けてくれたアイデアだった。

「これ、お前にやる!」
「アイオリア様『おめでとう』は?」
「あ…誕生日おめでとな、エア」


「きれい…」

もっと色々言いたそうに、エアは口をもぐもぐさせていたが、単語が浮かばないんだろう。
照れくさそうにオレの方を見て、それからほころぶような笑顔になって言った。

「アイオリア様、ありがとうございます」



「…お、おう! /// 」

あれ?何でだろう。今「嬉しい」って思った。
プレゼントを貰った方じゃなく、あげた方のオレが、どうして?


次にお礼を言われたガランが応えている。

「喜んでもらえて嬉しいよ。
 これからも宜しく、エア」


………!? 前に、兄さんも同じこと言ってなかったっけ。
「お前が喜んでいるのを見るのが、兄ちゃんは何より嬉しいんだ」って。



ああ、そうか。そうだったんだ。
あの時、何であんなに幸せそうに笑ってたのか。
兄さんの気持ち、何となく分かった気がする。


ガランも、こんな気持ちになってくれてたかなぁ?
でもオレ照れくさくて、つい「さんきゅー!」で済ませてた。

これからは、ちゃんとお礼を言わなきゃな。







ーーーそして8月16日

「アイオリア様、お誕生日おめでとうございます」
「おめでとうございます、アイオリア様」

「うん。
 二人とも、ありがとな!」

ありがとアイちゃん



[作成日:080816 「すこやか獅子祭れ」参加作品再録]



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