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>>エガオ ノ マホウ





エガオ ノ マホウ


去年のオレの誕生日に合わせて、エアと二人で画策していたガランのバースデーケーキ。喜んではくれたけど、出来れば誕生日当日に渡したかったんだよな。エアも同じ気持ちだったらしく、今年は早目に、且つ気づかれないよう動くと決めた。



5年前ほどでは無いが、ガランもエアも聖域の下町での買い物には未だ苦労している。「裏切り者、逆賊の身内に売ってやる品物は無い」と拒否する店があるためだ。食料品など、重い消耗品の買い出しが特に大変そうだ。二人ともオレの前では顔に出さないけどな。

そんな中、表立ってではないが、陰で支えてくれる人も居た。中でもパン屋のフェティエは、オレがずっと幼い頃からの顔見知りで。ガランの事件の時も、兄さんが居なくなった後も、以前と変わらず相対してくれた。


そのフェティエに頼んでケーキを焼いてもらおうという作戦だ。直前にバタバタすると、またガランにバレそうなので、作られる時期こそ違うが、日持ちのするバシロピタをお願いしたそうだ。

「粉砂糖の飾り付けは、アイオリア様のアイデアでお願いしますね」と、フェティエから預かったという型紙を置いていった。エアのやつ、また難しい部分をオレに回すよな。

フェティエが店番をしている時に、ケーキの装飾兼引き取りに行く。久し振りに会った彼女は、オレの成長ぶりに驚いていた。口にはしなかったが、兄さんの面影を見た様子だったな。



勘の鋭いガランのことだ。オレ達が何か企んでいる事にうっすら気付いていたと思う。それでも夕食の席で披露したバースデーケーキには、去年と同様喜んでくれた。更に本体は、フェティエ(エアは手伝い)が作った事を伝えると、とても驚いていた。

「いわば3人からのプレゼントだぜ!」と言うと、
見た事もないくらい優しい表情で微笑んでいたっけ。


  パシロピタ




「こんな素敵なプレゼントを頂いたのですから、アイオリア様のお誕生日には、これを上回るケーキを作らなくてはなりませんね」

食事が終わる頃、ガランがそんな事を口にした。ふと、ある出来事が甦ってきたので釘をさしておく。

「上に高いのは、もうヤダかんな…」
「え?ガランさん、そんな大きなバースデーケーキを作ったんですか!?」

事情を知らないエアが驚く。ガランは苦笑いしながら問いに答えた。

「私が…と言うか、アイオロスの発案で手伝わされた事があってね」
「自分は不器用でケーキなんか作れないと分かってるのに、とんでもねえこと考えるんだよな、兄貴は」
「…全くです」


あれもきっと、スポンジ部分をフェティエに焼いてもらったんだろう。3段分を買って来て、ガランに付き合わせてクリームで飾りつけしてたらしい。オレは別室で、出来上がるのを今か今かと待ってたんだ。


「アイオリア〜出来たよ〜♪」

兄さんの呼び声に、厨房まですっ飛んで行ったのに…


嬉しそうに、ケーキを頭の上に掲げて出てきた兄さんは、入口のアーチ部分にケーキをもろにぶつけた。慌てて支えるガランと「あれ?」という表情の兄さんをクリームまみれにして、ケーキはただの物体になってしまった。


「あの時は、マジで泣いたよなぁ〜」
「私も泣きたくなりました。
 アイオロスの頭をグリグリしてやりたい衝動を抑えるのがやっとでしたね」

わんわん泣き続けるオレを慰めるのと、ボロボロになったケーキを片付けるのとで、“あの”兄さんまで泣きそうな顔をしてオロオロしてたっけ。それを見てまた悲しくなって、自分でも訳が分からないまま泣き続けた。


「………」
話を一通り聞いたエアは、笑いを押し殺しているような哀しいような、複雑な表情で黙っている。と…

「分かりました。必ずやアイオリア様を泣かせない、凄いケーキを作ってみせます!」
突然何かに取りつかれたような宣言をした。兄さん、エアに憑依してリベンジしようとしてねぇか?

オレは慌てて止めに入る
「もう泣かねーよ!フツーでいいから、フツーで!!」







オレの誕生日当日、出てきたケーキはチョコレートたっぷりの四角いケーキだった。飾りも結構凝ってるけど、まあまあフツーじゃん?…で何?このぶっとい筒。

「「アイオリア様、お誕生日おめでとうございます!」」
より張り切ってる方のエアがロウソクと筒に点火した。


しゅぼっーーー!!!


   バースデーケーキ





「花火…かよ………」
オレは口をあんぐり開けながら炎を見つめていた。

「アイオリア様、びっくりしました?」
この件の発案者であろうエアが嬉しそうに尋ねてくる。“驚いた”って言うより“呆れた”。ここまでやるとはな…


「あのなエア…」
「はい!」

「警備兵が『何事か!?』と飛び込んで来っから、これ以上派手なのはやめろ!」
「あ…!………………ごめんなさい」

エアは、たちまちシュンとしてしまった。ガランが肘でオレを突っつく。分かってるよ!オレを喜ばせようとしてくれた事くらい。




   「兄ちゃん、泣かないで…」
   あの時、オレ以上に悲しい顔をしていた兄さんの
   クリームだらけの頭を“よしよし”と撫でたんだ。

   そしたらたちまち笑顔に戻った。





「でも嬉しかったぜ。
 ありがとな!」
落ち込んで俯いてるエアの頭を撫でてやる。


まるで魔法だな。あの時以上の笑顔が返ってきた。



作成日:120816



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